令和6年度 とうきょう すくわくプログラム 活動報告
テーマ「やさい・くだもの・くさばな 育ちと食」
テーマの設定理由 :
当園では、開園当初から菜園活動を通じた食育を保育の柱としてきました。畑・田んぼ・果樹園・花壇を整備し、子どもたちが自然に触れながら「食べること」や「育つこと」に関心をもてる環境を用意しています。
今回のテーマ「やさい・くだもの・くさばな 育ちと食」は、子どもの「なぜ?」という素朴な問いを出発点に、“育ち”“食べること”“命のめぐり”を探究することを目的に設定しました。
<活動スケジュール >
令和6年4月〜令和7年3月の通年を通して、季節に応じた菜園活動を展開しました。
• 春:土づくり、種まき、苗植え
• 夏:水やり、草取り、観察、収穫(じゃがいも・ブロッコリー・トウモロコシなど)
• 秋:稲刈り、きのこごはん作り
• 冬:炊飯・おにぎり作り、小松菜・大根観察、やつがしら収穫、晩白柚観察
• 通年:畑・田んぼ・果樹園の手入れ、記録と振り返り
<環境設定と準備 >
• 畑・田んぼ:土づくりから取り組み、肥料や腐葉土を用意。屋上にはプールを改造した田んぼを設置しました。
• 果樹園・花壇:柿や晩白柚など季節の果樹や草花を整備し、多様な自然に親しめる環境を用意しました。
• 道具:スコップ・ジョウロ・長靴・ルーペ・スケッチ帳を準備。観察や記録に活用しました。
• 工夫:成長の段階ごとに葉や実を展示し、写真掲示で「変化を見える化」しました。
<活動の内容と子どもの姿・声 >
子どもたちの探究は「問い」を軸に、活動を通して深めていきました。
~春の活動 ~
トマト・きゅうり・ゴーヤ苗植え、ブロッコリー種まき(4歳)
問い①:「種は何色かな?どんなにおいがするのかな?」
ねらい:五感で種を感じ取り、命の始まりを想像する。
「黒い!」「小さいけど大きくなるかな」と観察。匂いをかいで「においしないけど、葉っぱになったらする?」と未来を想像する声も。
問い②:「小さい種はどうやって大きくなるのかな?」
ねらい:成長の仕組みを考え、自然の力(水・光・土)に注目する。
「ひかりを食べるんだよ」「土の中にごはんがあるんじゃない」と声が飛び交い、保育者が「どんなごはん?」と聞くと「お水と空気!」という声も聞こえた。給食で野菜が出ると、「畑の野菜も育ったらこうなるんだ!」と収穫を楽しみにする姿があった。
~夏の活動 ~
田植え(5歳)
問い①:「どうして田んぼに水がいるの?」
ねらい:稲の育ちと環境の関係に気づく。
裸足で泥に入り「水が冷たい!」「土がザワザワしてる!」と声。子どもが「お米がのどかわいちゃうから水がいるんだよ」と発想。
問い②:「泥の中はどうなっているのかな?」
ねらい:見えない地中に想像を巡らせ、田んぼが多様な命の場であることを知る。
「虫がジャンプした!」「泥がボコボコしてる」と発見を語り合い、稲の根をそうっと沈ませ優しく植え付けを行った。
じゃがいも収穫(5歳)
問い①:「土の中でじゃがいもはどうやってできたの?」
ねらい:見えない地中に想像を巡らせ、成長の違いを考える。
掘り起こすと「でてきた!」「根っこがいっぱい繋がってる!」と歓声。「土の中で寝てたのかな」とユーモラスな声も。 根っこを地中になるべく残さないように、株をしっかり引き抜きます。
問い②:「大きい芋と小さい芋はどうして違うの?」
ねらい:成長条件や多様性に注目する。
「赤ちゃん芋だ!」「お母さん芋と家族だね」と大小を親子関係にたとえ、「お水をいっぱい飲んだ芋が大きいんだ」と気づいた子も。
問い③:「どのくらいの数がとれるかな?」
ねらい:数えることで数量や比較に関心をもつ。
「100!200!」と数えながら収穫し、200個超に「!」と表現した。
ブロッコリー収穫(4歳)
問い①:「葉っぱを食べたのはだれ?」
ねらい:虫と植物の関係に気づく。 命の共有や食物連鎖を考える。
「青虫が食べてたんだ!」「虫も人もおいしいって食べる」と発見。
問い②:「ブロッコリーって葉っぱ?お花?」
ねらい:野菜の構造を考え可食部とそうでない部位に関心をもつ。
「つぶつぶのお花みたい」「ここは食べるところ」と構造を理解。
トウモロコシ収穫(5歳)
問い①:「どうして粒がならんでいるの?」
ねらい:自然の秩序や規則性、美しさに関心をもつ。
皮をむいて、「黄色がキラキラ!」。「並ぶときみたいに順番まもってる」と発想。
問い②:「中の粒はどうやってふえるの?」
ねらい:受粉や実りの仕組みに気づく。
「知ってる!風で花粉が飛んでくるんだよ」と既に知っていておともだちに伝えたり、「このヒゲ繋がってるね」と、仕組みのヒントをみつける姿も。
問い③:「どうして甘いの?」
ねらい:作物の特性に興味をもつ。
「とうもろこしって野菜なの?」とヒントに気づく子もいれば、食べて「甘い!」「めっちゃおいしい!」と感動する姿もあった。「白いごはんもよく噛むと甘いかもしれないね?」と保育者が言うと、甘さの秘密を考え始め、給食に出る甘い食べ物を思い出す姿が見られた。
~秋の活動~
ラディッシュ種まき(2歳)
問い①:「この小さい種はどうなるのかな?」
ねらい:小さな命の可能性に気づき、育つ不思議を感じる。
「最初は小さいけれど、お水をたくさん飲んで、みんなのように大きくなるよ」と伝えると、「大きくなあれ」と声を掛ける姿がみられた。 小さくて蒔くのに苦戦しながらも、そうっと優しく土をかけた。
問い②:「どうやって水をのむのかな?」
ねらい:植物と水の関わりに気づく。 見えない地中の世界を想像する。
水やりをしながら「飲んでるかな」と、種が生きていることを実感している様子も見られた。
きのこごはん作り(3歳)
• 問い①:「これはしいたけ、これはエリンギ、ぜんぶ“きのこ”?名前がちがうの?」
ねらい:同じグループの中の多様性に気づく。
「しいたけはまるい!」「エリンギはちょっと固い!」と比べ、きくらげを見て「これはきのこじゃないと思った」と驚く姿があった。
問い②:「どんな形や手ざわりがあるの?」
ねらい:感覚を使って特徴をとらえる。
「ぬるぬるしてる!」と戸惑う姿、「ふわふわだ!」と声をあげ、感触を言葉に変えて楽しむ姿、繊維に沿って割くとほぐし易いことにも気づいた。
稲刈り(5歳)
問い①:「稲が何色になったら収穫できると思う?」
実りのサインに気づき、季節との関わりを理解する。 季節の色彩の豊かさを知る。
「緑から変わって薄い茶色っぽくなったら」「黄色?」「金色!」「おひさまの色みたい」と表現。
問い②:「刈ったお米はどうやってごはんになるの?」
稲から米になり、食卓に上がるまでの過程を知り、農家や食事を作る人への感謝の気持ちをもつ。
保育者が鎌で刈り取る様子を興味深く観察し、はさがけや脱穀を体験した。「昔の人はこんな風に縛っていたんだね」と伝統的な農法に想像を巡らせる姿も見られた。
~冬の活動~
おにぎりづくり(2歳)
問い①:「お米はどうやってごはんになるのかな?」
ねらい:絵本を通してお米の育ちを知り、食への理解を深める。
おそるおそるお米を研ぐ姿や、お米の中に手を何度も差し入れ感触を楽しむ姿もあった。
問い②:「どれくらいの大きさがいいかな?」
ねらい:形・大きさ・食べやすさの関係に気づく。
「小さいおにぎり」「大きいおにぎり」の声かけに、自分のおにぎりを誇らしげに見せ合った。
やつがしら収穫(3歳)
問い①:「やつがしらって知ってる?おせちって知ってる?」
おせち料理や縁起物といった日本の文化に触れ、込められた思いに気づく 。
問い②:「来年はもっと大きくなるのかな?」
ねらい:次年度への期待や継続の意識をもつ。
「次はもっと大きいのにしたい!」と期待を込める子の姿もあった。
小松菜と大根の観察(全園児)
問い①:「寒いのになんで元気なの?」
ねらい:冬野菜の強さ、寒い時期の料理が体を温めることに気づく。
「土がお布団のかわりなんじゃない」「お鍋のだいこん大好き」と、冬野菜の特徴に気づき始める。
問い②:「冬野菜をたくさん食べたら、どうなるかな?」
ねらい:冬野菜の特徴を知り、想像する
「元気になる!」「あったまる!」「強くなる!」などの意見が出た。保育者の「しっかり食べて体を温めると風邪をひきにくくなるよ」という言葉に、「はやく収穫したい」と心待ちにする姿が見られた。
大根収穫(5歳)
問い①:「なんでこんなに大きくなったの?」
ねらい:土や養分の役割を考える
「水をたくさんあげたから」「肥料をあげたから」「土づくりしたから」と、しっかり経験から考える姿がとらえられた。
問い②:「どうやって抜いたらいいと思う?」
ねらい:力の入れ方や収穫方法を工夫する。
「腰に力をいれるんだよ!」と友だちに教え合う姿があった。
問い③:「葉っぱは食べられるの?」
ねらい:野菜の部位と食の関係に気づく。
「お味噌汁にできるよ!」と給食体験とつなげて話す子がいた。
晩白柚(ばんぺいゆ)観察(全園児)
問い①:「どうしてこんなにまるいの?」
ねらい:形や大きさから自然の仕組みに気づく。
エピソード:「お月さまみたい!」と例え、「ボールより大きい!」と大騒ぎ。
問い②:「食べたらどんな味かな?」
ねらい:収穫と食べる喜びをつなげる。
給食で食べて「甘い!」「すっぱいけどおいしい!」と声があがった。
<振り返りと共有>
• 保育者:各クラスの代表が集まり、活動記録や子どもの声をもとに「食と命への気づき」を共有し、次の探究課題へと再構築しました。
• 子ども:収穫や調理を題材に絵や制作を行い、絵本の中でも収穫物に触れ、「楽しかったこと」「不思議に思ったこと」を友だちと伝え合いました。調理・実食を通して「いのちを食べる」実感も得ました。
• 発信:活動を「菜園ドキュメンテーション」として園内掲示・HPに公開し、保護者や地域とも学びを共有しました。
<保育者の気づき>
• 子どもたちは「なぜ?」という問いを自ら立て、友だちと考え合いながら理解を深めていました。
• 気候や土・虫など自然の多様な力に気づき、目に見えない「命の支え合い」を感じ始めていました。
• 育てたものを食べることで、「食べる=生きる力をいただく」 という実感が子どもに確かに育っていました。
• 保育者もまた、子どもの問いを拾い、深める関わりの大切さを再確認しました。
<総括>
1年間を通じて、子どもたちは菜園活動の中で数多くの感動と発見を経験しました。
「どうして育つの?」「どうして食べるの?」 という問いを通じて、自然と自分とのつながりを探究し、「育ち」と「食」を命と結びつけて考える姿 が確かに育まれました。